<チャンネルガイド2020年7月号に
掲載した内容です>

2020年6月22日

松浦武四郎記念館 展示 旅に生きた武四郎

 2016年から始まったこのコーナーも今回で50回目。今回は第1回で寄稿いただいた、松浦武四郎記念館の山本主任学芸員に企画展をご紹介いただきました。

 北海道の名付け親として知られる松浦武四郎。 
 しかし、彼が2万kmを超える道のりを歩いた「旅の達人」であったことは、あまり知られていません。
 武四郎はなぜ旅を志したのでしょうか。
 そのきっかけは、彼が生まれ育った環境にありました。
 武四郎の家は伊勢街道沿いにあり、江戸時代は伊勢参りの旅人が多
く行き交いました。
 武四郎が13歳の頃に起こった「文政のおかげ参り」の際には、阿波国(徳島県)の妙楽寺というお寺から、内緒でこっそり伊勢参りに来た少女が、風邪をひいて困っていたところ武四郎の家で看病してもらい、無事に徳島のお寺へ帰ることができたようです。今回の展示では、そのことを感謝する手紙を展示していますが、この時家にいた武四郎は、少女から旅の話を聞いて大きな刺激を受けたことでしょう。
 その後、武四郎は16歳で家を出て江戸へと旅立ちますが、その時の手紙も展示しています。そこには、「この先私は江戸、京都、大阪、長崎、唐(中国)または天竺(インド)まで行くかもしれません」と記しています。諸国をめぐる旅では朝鮮半島へ渡ろうと対馬まで行っていることから、武四郎が人並み外れた行動力の持ち主であったことがわかります。

16歳で家を出る時の手紙

 武四郎の旅は、ただ「歩く」だけではありませんでした。見た景色や、聞いた話を小さなメモ帳に記録し、そして本にまとめています。
 今回の展示では、手のひらほどの小さなメモ帳に福岡県糸島市の名所「芥屋の大門」や「桜井神社の境内」のスケッチのほか、旅で用いた筆記用具「矢立」もご覧いただけます。
 また、青森や秋田、佐渡を旅した記録や、晩年に菅原道真を信仰し、京都の北野天満宮、大阪天満宮、福岡の大宰府天満宮に奉納した直径1m以上、重さ120kg以上もある巨大な銅鏡の拓本も展示しています。武四郎の足跡は北海道だけではなく、沖縄以外の日本全国に及んでいるのです。
 そして、人生の最後を過ごした畳一畳の書斎「一畳敷」を再現した部分もご覧ください。武四郎がこれまでの旅の人生を振り返るために作った部屋は畳一畳の広さしかありませんが、そこに使われた木は全て日本各地から贈られてきたものでした。
 旅を愛し、旅に生きた武四郎の姿を、この展示を通してみなさまにぜひご覧いただければと思います。

文/山本 命主任学芸員(松浦武四郎記念館)

武四郎の旅の足跡(三重県総合博物館 学芸員 太田光俊氏作成)

展示「旅に生きた武四郎」
◆開催期間:2020年7月12日(日)まで開催 ※月曜休館
◆場  所:松浦武四郎記念館(松阪市小野江町383)
◆電  話 0598-56-6847

山 本 命(松浦武四郎記念館 主任学芸員)----------
平成13年から記念館の2代目学芸員を務める。松阪市だけでなく東京や北海道などでも講演を行い、NHK総合「歴史秘話ヒストリア」や、松阪市行政チャンネル「松阪歴史探訪」などにも出演。優しい語り口調とわかりやすい解説が好評。